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 山の歩き方
初めに・・
真偽は兎も角、最近は、「メタボリックシンドローム」と「ウォーキング」の話題で賑わっています。横文字から連想されることは、文化的な生活が夏バテを増幅していると思われます。例えば、クーラーでガンガンに冷えたオフィスでパソコンに向かう仕事が続けば、本来の生体調節に狂いを生じるのは明らかでしょう。冷房といえば、体温調節があります。その狂いは、ウォーキングでも改善効果があるとされる調査結果があります。まあ、難しいことは傍らに置くとして、「疲れずに楽しく歩く」ことを話題にしましょう。
山を歩くことに興味がある人の中には、オートルート(la haute route(高き道):アルプスの最高峰モンブランの山麓シャモニから、アルプスのピラミッドマッターホルンの山麓ツェルマットに至る山岳路)、やヒマラヤのトレッキングを思い描くこともあるでしょう。また、私の興味としては薄いのですが、四国遍路や熊野古道に向かう人など様々でしょう。ただ、四国遍路や熊野古道に向かう人の中には、観光、健康志向の増加で、住民が育んできた文化を静かに見守る心が薄れているとの声もきこえます。私などは、どちらかといえば健康志向派ですので、時折、無神経な行動をとっているかもしれません。
その私でさえも心苦しく思うのは、国内外で見かける日本人のある種の錯覚、傍若無人の姿です。残念ながら、人生経験が長く、思慮分別あるべき中高年のハイカー、登山者のマナー欠如や身勝手さに閉口することがあります。最低限のマナーは、ガイドとして啓蒙に心がけたいと思います。多分、何れの人たちも、日本人の我々一般庶民のDNAにある「晴れ舞台」、「無礼講の日」での振舞いなのかもしれません。一方では、「目くじらを立てず」、「大目に見る」心の余裕も持てればと思う今日この頃でもあります。
さて歩くことに話を戻すと、私の歩くことへの興味は、少なからず以下のような人たちによる刺激があります(クライミングは別の機会に述べます)。
■ヘディン(1865年〜1952年) スウェーデンの地理学者、探検家。タクラマカン砂漠の決死の縦断旅行し、タリム盆地最大の湖、ロプ・ノールを「さまよえる湖」と名づけ楼蘭を発見。
■植村直巳
(1941年2月12日〜1984年2月13日?)
世界の山々を登り、北極圏12000kmを単独犬ゾリで走破などの偉業を成し遂げた世界的に評価が高い冒険家。
■関野吉晴(私より1歳年下) 足かけ10年にわたるグレートジャーニーを達成した探検家。
■大場満郎(私より5歳年下) 1997年に北極海横断単独徒歩行を世界で初めて達成し、南極徒歩大陸単独横断も達成。

歩きと健康についての一般論
歩くことの効用は、様々な科学的報告があります。難しいことは、専門書をひもといて下さい。では、幾つかの事例について述べます。

@気分、心理的影響
心理的な影響は、気分転換(気晴らし効果)とも表現されるように、多くの人が体感していることでしょう。ただし、律儀な人は、今日は何歩、何十分などと義務感、目標達成感であるきますので、心理的な効用というよりも次の各代謝系の効用の方が大きいかと思います。
なお、誰にでもストレスがあります。ストレスといっても、生理的なストレス、社会心理的なストレスがあります。いずれにしても、外界からの刺激(ストレッサー)は、感覚器官等から脳で認知して応答することになります。その強度は下記の式となります。
        ストレス=ストレッサー×認知的評価
これは、当然ながら個人差があり、認知的評価(捉え方)の差になるわけです。なお、私が好きな山岳マラソンの場合は、苦しいことと無縁な散歩とは異なる別の作用による気持ちよさです。苦しくなると「脳内麻薬(内因性モルヒネ様物質:β-エンドルフィンなど)」が出てきます。それが、苦しみを和らげ、気持ちが良くなったと思わせます。

A糖と脂肪の代謝への影響
次に、冒頭のメタボリックシンドロームに係る項目で、ダイエットの話題の中心、糖と脂肪の代謝への影響があります。
ここでも、先ず、「運動は少なくとも20分以上」が拘りとしてある律儀な人へ。確かに、運動することによって糖分(グルコース)の貯蔵庫(筋肉)にある糖分を消費します。ダイエットで気になる脂肪の消費は、運動開始後20分から活発になります。それで、ダイエット指導者は、20分以上の運動を心がけるように言います。本当でしょうか?
確かに運動開始後20分程度経過すると消費量が逆転するわけですので正解と言える筈ですが、運動エネルギーとして片方が消費されなくなるわけではなく、両方消費されることを忘れています。また、食事で摂取した糖は、エネルギーとして消費されるが、余った分は脂肪として蓄えることになります。ここでダイエットに繋がるわけです。1日のうちで、エネルギー消費量は、続けて歩いても間を空けてもトータルの量ですので、時間を気にする必要はないわけです。
ちなみに、厚生労働省資料(5分間の運動で消費されるエネルギー量)では、次のようになっています。
 ・散歩        16kcal
 ・軽いジョギング  32kcal
 ・階段昇降     32kcal
 ・自転車       21kcal
 ・テニス       37kcal
 ・子供と遊ぶ    21kcal
なお、歩く目安ですが、これも厚生労働省の資料ですが、「健康日本21」という活動報告によると2010年までの達成目標は1日8300歩以上とのことです。
10分歩行では、約1000歩と言われていますので、1日80分以上になります。それは、仕事や日常生活にある程度余裕のある人ですよね。
ちなみに、脂肪1gを燃焼するためには7kcal、1kg痩せるためには7000kcalの運動をしなければなりません。1日の食事による摂取エネルギーを1500kcalに抑え、消費calを2200kcalにし、これを10日続ければ1kcal減ることになると言われています。
でも気をつけてください。基礎代謝量を忘れてダイエットすることは、自分の健康を損なう恐れがあります。
基礎代謝(BM=basal metabolism)とは、呼吸をする、各種の臓器を動かす、体温を保つなど、生きていくために必要な最小エネルギー量(最低限必要なカロリー量)のことです。
    (参考計算式)欧米のハリス・ベネディクト方程式
    男性:66.47+(13.75×体重)+(5.0×身長)−(6.76×年齢)
    女性:665.1+(9.56×体重)+(1.85×身長)−(4.68×年齢)
日本人の場合は数パーセント差し引く必要があります。
なお、脂肪と筋肉では、筋肉の方がエネルギー消費が多く、従って、運動して脂肪の少ないヒトの方が基礎代謝量が多いことになります。また、食事を抜くダイエットをすると、基礎代謝量を少なくするメカニズムが働きます。つまり、運動でダイエットすると、筋肉にエネルギーがシフトし、基礎代謝量が大きくなり、結果として太りにくくなります。もう一つ、基礎代謝は成長するにつれて高くなり、17歳前後がピークで、その後は徐々に減り、一般に40歳を過ぎると筋肉の質量が減ることから急激な下降線となります。それを男女で見ると、一般的に出産の対応のために体脂肪を蓄えている女性は男性よりも基礎代謝が低い傾向にあります。

B血液循環・心臓・血圧への影響
次に、血液循環・心臓・血圧への影響も見逃せません。歩行することにより、血液の循環がよくなり、脳の活性化、血液循環の促進、その結果、動脈硬化や狭心症発作予防、血圧の安定化をもたらすと言われています。また、血液循環の促進(血流の増加)は、適度な体温上昇をもたらし、温泉・入浴の効果と同じく「気持ちよさ・リラックス」に繋がるわけです。

C筋肉・骨格への影響
最後に、これは、私のサラリーマン生活で長く業務担当した骨粗鬆症領域に係ることになりますが、筋肉・骨格への影響があげられます。
筋力の維持・向上は、膝関節痛や腰痛の改善につながります。事実、私は、筋力の維持で腰痛を予防しています。安全を気遣うお医者さんは、どちらかというと、運動を控えて安静を薦めますが、自分の体と相談しながら筋力を気遣いましょう。また、骨は、常にメカニカルストレスといって、骨に運動刺激が伝わることで骨代謝が保たれます。結果として、骨がやせ細る(カルシウムが逃げ出す)ことで生じる骨折のリスクを少なくする効果があります。とは言っても、無理による疲労と不注意による躓きは、骨折リスクを高めます。
以上、多少の知識として歩行の効用をのべました。ただし、効用の対極にはリスクがありますので、決して無理をせずに継続することを心掛けて心身の健康を保ちましょう。
以上、この項では健康に歩きが効果あることをのべましたが、無理せずという目安を記しておきます。
  ● 疲れの指標となる乳酸は無理して早く歩くと多く発生します。
     ユックリあるく目安:最高心拍数の75%に抑える(T)
     T=(220−年齢)×0.75
  ● エネルギーが枯渇すると歩く筋力に無理が生じます。
     少なくとも必要な歩行エネルギーの50%以上をシッカリ食べる(U)
     U=体重×行動時間×5(kcal)
  ● 水分の補給を怠ると体温調節等の生体調整に無理を生じます。
     脱水を防ぐ十分な水分を補給する(V)
     V=体重×行動時間×5(ml)

歩き方について基本
歩くこと、その目的は人様々でしょう。このテーマに目を移す人の多くは、「健康のため」ということを理由として答える人が多いかと思います。「健康のため」というと、スポーツとしてのトレーニングに通じますが、ここでは、少し視点を変えて「気分転換」としての歩きに通じる側面から述べてみたいと思います。
私自身は、ウルトラマラソンやハードな岩登りを長年経験し、そのトレーニングの楽しさも覚えています。確かに厳しい運動をすると苦しさの後に心地よさを感じることになります。そのことが継続の力になるとも言われています。
「歩きと健康についての一般論」で生体の反応について若干触れましたが、その科学的な話題については、別の機会に述べることします。
一所懸命に日常の仕事を一筋にしていた、あるいは今はあまり体を動かしていないという多くの人は、「いきなりハードなレベルは」といったことでしょうし、「日常と少し違った雰囲気を味わいたい」とか、「なんとなく健康によさそう」といったことで戸外のウォーキングを楽しみたいということではないでしょうか?
では、楽しみながら、疲れないように歩く基本を考えて見ましょう。そこで思い浮かぶのは下記4点です。
 @ ユックリ歩く
 A 歩幅を小さく
 B 登りと下りの姿勢は重力に逆らわず
 C 自分の体をケアする(科学意的話題として別の機会に述べます)

@ユックリ歩くこと
里山歩きは、「ユックリ」が基本です。わき目も振らず「目的の頂や場所へ向かってヒタスラ」に歩くと、五感に伝わる「心地よさ」や「千変万化する身近なものへの興味」を逸することになるでしょう。それを獲得するだけでも、歩く速度の遅さにメリットがあります。ウォーキングは爆発的な筋力を必要としません。
前述した「歩きと健康についての一般論」の中をご覧いただきたいのですが、科学的には脂肪・糖質によるエネルギーの供給の説明や心拍数の知識を辿って判断してください。道端の花に目を移し、梢にみえる野鳥に目を移し、青空に浮かぶ雲を見上げながら頬をなでる風を感じるといった歩きをすると、自分の最高心拍数(220−年齢)の75%を超えないペースを保つ、または心拍数110〜120/分を越えないペースや息切れしない有酸素運動のペースを保つなどは全く気にしなくていいことになります。
息せき切って歩くと体脂肪よりも糖質を消費して疲労を促進する乳酸を増やします</FONT>が、その蓄積は、個人差があるのは当然ですね。もし、殆ど運動しない人、あるいは体力的に弱い人と一緒に里山を歩いた場合、トレーニングを積んでいるあなたはイライラせずに、その同行の人のペースに気配りをすべきです。

A歩幅を小さく

過度な筋肉への負荷をかけず、姿勢を一定に保ちやすい小さな歩幅を薦めます。
特に登りはユックリと、歩幅を小さく、下りも同じく心掛けることですね。でも、下りを無理に小さくしようとすることよりも足場を判断して柔らかい一定のペースで、靴底を滑らさないように地面を確実に捉えましょう。

B登りと下りの姿勢は重力に逆らわず
ユックリと歩幅を小さく、そして、スックとした姿勢(?)、つまり、重力方向に素直に体の軸を真っ直ぐに起こした姿勢を保つことです。登りで無理な前かがみで歩幅を大きく、下りでオッカナビックリするような腰を引いた姿勢をとらずに歩きましょう。
つまり、二足歩行の人間の筋肉への無理な負荷を少なくする自然体の姿勢をとりましょう。大雑把に言うと、前太もも(大腿四頭筋)、でん部(大臀筋)、背中(脊柱起立筋)という一般的登山で主に負荷がかかる筋肉を楽にさせましょう。

C自分の体をケアする
疲れないためには、ユックリと歩幅を小さく、そして重力に逆らわずに歩くのです。そして、より疲れないように普段のトレーニング(トレーニング論は、また別の機会にします)が必要です。また、エネルギー補給、水分の補給を含めて自分の体を知り、無理をしないことが大切ですね。
先ず、歩く前に柔軟体操、ストレッチをすること。怪我の防止のためにも、歩きをスムースにさせる膝関節や足首の関節を柔らかくしておきましょう。特に、自分の体で弱い関節箇所をユックリと伸ばし、回し、稼動域を広げておきましょう。
そして、休憩時間はダラシナク、デレ〜っとしましょう。歩き出す前は、軽いストレッチを心掛けましょう。勿論、歩き終わりでもストレッチしておくことは、筋肉の疲れを少しでも残さないためにも大切です。
その他、歩くために重要な靴選び、ウェア選び、近年多用されているストックの使い方も疲れの差に関係してきます。それは、自分自身の体の特徴にフィットした選択と使用、対応によって疲れを最小限に抑えることに繋がるのです。